海外でトイレに困った経験はないだろうか。公衆トイレが近くになく、デパートや公共施設も付近に見当たらず、下痢が直撃したときなど、危機一髪を体験した人には共通の実感があるはずだ。それは、日本と違い海外にはトイレが少ないということだ。パリは今でこそサニゼットという公衆トイレが増えているが、それまではカフェや美術館、百貨店などに入らない限りトイレにたどり着けないと不満を漏らす観光客が多かったと思われる。僕の入ったジャカルタの百貨店に隣接する公衆トイレは、トイレットペーパーが見当たらず、簡易ホースが備え付けられていた。ホースから出る水でお尻を洗浄せよということらしかったが、携帯ティッシュペーパーでなんとか用を足した。
でも自分史上トイレで一番危うく記憶に残っているのは、中国雲南省にテレビのロケで訪れたときだ。それは用が足せないのとは別の意味での緊急事態だった。
その頃はまだ中国本土を訪問してから日が浅く、土地の食事も食べ慣れなかったせいか結構お腹を壊していた。正露丸やビオフェルミンなど常備薬はあったが、まあ大丈夫だろうという体であまり頼っていなかった。その日のロケは昆明の士林という自然の石がまるで林のようににょきにょき隆起する景観に優れた観光地で行われた。午前中一通りロケを済ませ、最寄りの食堂でランチを摂った後だったと思う。ちょうど士林石林に入るあたりが広めの駐車場となっており、観光バスが何台も入れるスペースとなっていた。その向かいに大きめの公衆トイレがあるのだが、そこでランチの中に食べつけなかった食材があったのか、お腹が痛くなってきたのだ。汚いだろうし、中国ではホテル以外のトイレは使うまい、と最初から決めていたのだが、その時は我慢の限界に達していたので、渋々公衆トイレの建物に入ってみた。すると、噂で聞いていた‘ニーハオトイレ’が待ち受けていたのだった。いわゆるドアなしトイレだ。ズボンを脱いで和式トイレと同じ格好で用を足すのだが、ドアがないためお尻丸出しの状態が他人から丸見えというやつである。そのときは、観光バスも止まっておらず人もいなかったので、チャンスとばかり急いでズボンを脱ぎ、素早く用を足そうとしゃがんだ。ホッとして用を足していると、外で観光バスが駐車し多くの中国人が降りてくる音が聞こえた。ほどなくガヤガヤしゃべりながらトイレに入ってくる中国人観光客に、最中にも拘わらず思わずお尻を隠したくなった。お尻丸出しの僕の羞恥心は最高潮に達し、中国人にこっちを見るなと思いながらお尻を拭いたのだが、誰も僕のことなど気にする様子は一切ない。彼らは自分たちの用を足すことに専念、まるで僕の存在などないような振る舞いだ。結局のところ羞恥心で大変な思いをしたのは自分だけで、周りの中国人からしたら、僕は日常の風景の一部だったのだ。この経験をしてから、僕はかなりタフになった気がする。
もちろん、同じ経験は二度としたくないが、郷に入っては郷に従う、という感覚が芽生えたのではないかと考えている。でも、やはり日本のトイレは素晴らしい。コンビニにも駅にも公園にもあるし、排せつで忍耐を強いられることはそうない。ウォシュレットに至っては日本が生んだ画期的な発明品だと胸を張って世界に言いたい。と、今日は臭い話で失礼。
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