言葉がその土地で根付きながら、文化を作ってるって思うときがある。中華圏で会話しているとき特にそう思う。僕はアメリカ留学中に中国語のクラスを取り、台湾人の先生のもとで英語で学習した。もちろん初級のクラスだったので、帰国後NHKの語学講座や生涯教育講座のクラスを大学で受けたりして、なんとか忘れない程度にキープしてきた。そして、出張のたびに中国語を話す機会を作ってきた。空港の両替所、ホテルまでのタクシー、ホテルでのチェックイン、レストランの注文、買い物などなど。こうした会話ではこちらの要求を一方的に伝えるだけなので、それほど苦にはならないのだが、一番大変なのはヒアリングだ。結構話すことには慣れているのだが、聴くことにはいまだ習熟していない。たまにペラペラ返されると、ん?となってしまう。会話は聴くことと話すことが出来て、初めて成立する。その点で、僕はまだまだ未熟者である。
さて、言葉の話に戻そう。
あるとき台湾で現地の仕事相手に会話の流れで「〇〇行、不行?」と聞いたことがある。これは「〇〇はOK?」と尋ねる意味の中国語なのだが、彼女は微妙な顔をしながら日本語で「その言い方は台湾ではしない」と返事をした。よく考えたら僕が習っていたNHKの中国語講座はいわゆる北京語と呼ばれる中国本土の標準語なのだ。台湾で同じ表現をする場合、「〇〇可以、不可以?」となる。日本人からしたら漢字の違いだけなのだが、現地の人からしたら二つの表記にはニュアンスにかなりの隔たりがあるのだろう。またあるとき中国で初めて会ったビジネス上の相手に「請多多指教!」と挨拶したら、少し戸惑い気味の表情で「請多多関教!」と返された。意味はどちらも「よろしくお願いします!」の意味だが、台湾では前者の表現が、本土では後者が好んで使われるようなのだ。辞書で調べれば、どちらも正しいフレーズとして検索されるのだが、どうもそれで済まされる話ではないようである。漢字表記も国や地域で異なる。中国語には簡体字と繁体字があり、本土では簡体字、台湾、香港、マカオでは繁体字が使われる。東京は繁体字表記で、簡体字だと东京となる。日本人にとっては繁体字表記がなじみ深いことになる。僕にとっては台湾の人も中国の人も大事なビジネスパートナーだ。それがちょっとした言葉遣いであなたはどっち派ね、みたいは見られ方は損をする。なので、こうしたちょっとの表現の違いに気づいてからは、訪れる場所に応じて表現を変えて対応することにしている。おかげ様で、その後変な顔をされたりすることはなくなった。異文化交流では、言葉には気を付けましょうね。
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